ドリーム小説

埃っぽい臭いが鼻につき、は思わず鼻を摘まんだ。



【悪霊がいっぱい!? 4】



歩くたびに廊下が軋む。
ナルがベースとしている教室に入ると、並べられたさまざまな機械を眺め見て、法生は感心した声をあげた。
「こいつは・・・こんだけの機材をよくまぁ集めたな」
テレビにマイクに赤外線カメラ。
眺めながら、綾子はせせら笑う。

「これだけ集めて無駄骨なんてご苦労様ね」
「いやあ。俺は見直しましたよ。こんだけのモン持ってる事務所の所長さまだからなあ、こりゃ有能に違いないわ」

あっけらかんと言う法生。
ナルは画面に目を向けたまま。
「あなたがたは除霊に来たんですか、遊びに来たんですか?」

的を射ているだけに言い方の悪さが目立つのが、ナルだ。
「これだから子どもは嫌なのよ!」

キィと声をあげる綾子を背に、はナルへと首を巡らせた。
「ナル所長、私も探検に行ってもいい?」
「嘘、!?」
「大丈夫大丈夫、あの人たちについていけば安心でしょ!」
「ちょ…!? まったくもう、勝手なんだか・・・ら、って、ナル、どうしたの?」
何やら思案気な顔をしているナルに気付く

「いや・・・」

口にする気はないらしい。
何事もなかったかのように資料を閉じたナルに、麻衣は小首を傾げた。






「と言う訳で、ついて行かせてもらいます」
やぁやぁと手をあげたに、綾子は瞬き二回。
さして気にしていない様子の法正は掃除用具入れを開けてみたり、下駄箱の中を覗いてみたり。
「友達と一緒じゃなくていいの?」
「いいんです、一度旧校舎の中に入ってみたかったし、それに」
ニヤリと笑った。
「本当に黒田さんに霊をつけられたら、綾子さんに祓ってもらうんで。呪われ同士仲良くしてください」


先ほどの事を思い出したようだ。
ギョッと目を剥いた綾子は、廊下中に響き渡るほどの高笑いで弾き飛ばすと、肩肘を張る。
「あんなコのホラ話なんて間に受けるもんじゃないわよ。安心なさい、巫女の私が居れば怖いものなんてないんだから!」
「おーおー、大きく出ました事。んではお姉さん方、あちらの部屋でも探索にいかれて下さいな」


「汚い」
「暗い」




階段の下を通って奥に伸びた廊下、その先に、寂れた教室が一つ。まだ明るい時間帯だと言うのに、影が濃い教室に綾子はぶるりと身震いした。
「男のアンタが行きなさいよ」
「俺はこっちの教室。それとも巫女さんは怖いんですかね」
「行くわよ、行けばいいんでしょう!」
そっぽを向いた綾子が大股に足を踏み出す。強引に綾子に腕を取られたは渋々後に続いた。
「埃っぽい・・・」


綾子がカーテンを指先で摘む。
すりガラスのうえ汚れていて、これじゃあカーテンを開けた所で陽光には期待できない。

「ほんとに汚いわねぇ」

ぶつくさ呟く綾子。
は教室の隅にオブジェのように積み重ねられた机を見、黒板を見た。チョークの溝には埃の山。
(長居するような所じゃないわね)
どちらからともなく跡にしようとした二人。
その耳に錆びた金属音が響きわたり、一人でに扉が閉まったように――見えた。
「何!?」
飛びかかるようにして綾子がドアを掴む。
力いっぱい横に引くも、ピクリともしない。
「キャァアアアアアア!!」
金切るような悲鳴を綾子があげて、はサッと影に視線を落とすと、「左近!」と叫んだ。身体の横を気配が通りぬけていく。


「綾子さん」
「開けて、どうなってるのよ、コレ!」
「綾子さん! しっかりしてください! 大丈夫です。近くには滝川さんが居るはずですし、先ほどの綾子さんの悲鳴は、間違いなくナルたちにも聞こえているはずですから」

とたんに足音が集まり、爪がノブを引っ掻く音が聞こえて来た。
「開けて!ちょっと開けてよ!」

ぼそぼそと話し声が聞こえるものの、何といっているかまでは分からない。
ひときわ大きくドアを叩く音が聞こえると、外から法生が叫んだ。

「おい、蹴破るぞ!どいてろ綾子、!」
「勝手に呼び捨てにしないでよ!」


ヒステリックに叫び散らしながら、綾子がドアから離れる。寸ともせぬ間に蹴破られたドアは床にひっくりかえった。
「無事かー?」

「一体どう言う事よ!」
「どう言う事もこう言う事もないだろ」
とりあえず落ち着けよ、と法生が宥める傍を通り、それはの背後にくると小さな声で囁いた。
「・・・」
その言葉を聞き、は頷くように瞳を閉じる。
やがて広がった視界の先で、和服姿の少女と目があった。


彼女は真っ直ぐと見ている。
の後ろを。


はにこりと笑うと、自分の影へと消えた気配に呟いた。
「ご苦労様、左近」